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歴史的総選挙に寄せる、秋水氏の名文三作 ~その参 『選挙の標準』~

 さて、明日はいよいよ、この歴史的政治戦の決着と、日本がここから変わるであろう運命の刻を迎えます。

 三連作の“取り”を飾るのは、『平民の要求』『平民の武器』より前、秋水氏がまだ『萬朝報』の記者だった時に書かれた、1902年(明治35年)の『萬朝報』3月27日号の記事、

 『選挙の標準』

です。

(例によって、少し現在日本風に改ざんしております)


【以下、原文引用開始】


選挙の標準

 候補者の輩出は殆ど娘一人に婿八人の観あり、彼等は今後数ヶ月間、或は篭絡を以て、或は威嚇を以て、或は誘惑を以て、或は義理づくめを以て、競うて選挙人の心を動かさんことを勤む可し、無邪気なる選挙人が、多数の候補者、若しくは其運動者の間に板挟みとなりて、所謂彼方立つれば此方が立たず、其挨拶に困り其選択に苦しむの状、想う可き也、而(しか)して往々其煩労に堪えず其苦痛に堪えずして、選挙権なるものは是れ権利にあらずして、寧ろ一種の義務に非らざるかを疑い、甘んじて此権利を放棄せんと希い、或いは速やかに此義務を免れんが為に、唯だ其時の便利都合に従いて進退し、絶て其結果如何を省みざる者あり、是れ一応尤もなるが如くに見ゆ。

 選挙は権利也、然れども一面に於いては確に義務也、選挙人が其代表者を透して政治に参与するの点に於ては権利と雖(いえど)も、国家の為に善良なる議員を擇み、其国家の進歩と隆昌とに竭(つく)すの点に於ては、明かに重大なる義務たらずんばあらず、故に白耳義(ベルギー)の如きに於ては、之を以て権利たるよりも寧ろ義務となして、若し投票を為さざる者あれば、相当の罰金を課するの法を設け居れり、夫れ其所有の権利を放棄するの愚なるや言を待たず、唯だ自ら其愚に甘んずとせば甚だ咎む可きに非ざるも、之を義務の点より見れば、投票を為さざるは其国民たるの義務を尽くさざるの罪、固より免る可らず、縦令投票を為すと雖も、善良ならざる候補者を投票するは、独り彼等自身の不利益たるのみならず、亦実に間接に国家を害毒するの甚しきもの也、故に投票は投棄す可からず、而して更に候補者の選択に於いて尤も謹慎ならざる可からず。

 然り、日英同盟の成るに狂喜して連宵酣飲する程に国家を愛するの国民は、候補者の選択は尤も謹慎ならざる可からず、何となれば今の議会の腐敗堕落は、我が国家に取って露仏の同盟よりも恐る可ければ也、我議会の改善は、我国家に取りて清韓両国の保全よりも急要なれば也、知らず忠愛なる熱狂なる国民は、果たして如何なる候補者を擇まんとするや。

 吾人をして試みに選挙民諸君の為に、其候補者選択の標準を示さしめよ。吾人は切に告げんとす、候補者の門地を以てすること勿れ、其才弁を以てすること勿れ、其財富を以てすること勿れ、其年老いたるを以てすること勿れ、其風采を以てすること勿れ、唯だ諸君の財布を托して安心なりと思惟する所の人を選挙せよ、夫れ或は庶幾からん。

 代議士は実に諸君の財布を托する者也、財布の出納を一任する者也、否な諸君の自由と安寧と幸福と其生命すらも委托する者也、諸君の愛する国家の運命、日英同盟に狂喜するほどに愛する国家の運命を托する者也、豈(あ)に誠実の人ならざるを得んや、然り誠実ならしめざる可からず。

 故に吾人は繰返して曰う、諸君の財布を托して安心なりと思惟する人を選挙せよと。

【『萬朝報』明治35年3月28日、無署名】




《紅星拙訳》


選挙の標準【紅星訳(一部アレンジあり)】

 候補者が立候補するのは、ほとんど一人娘に婿が八人求婚するようなものである。

 彼らはこれから数ヶ月間、あるいは篭絡で、あるいは脅しで、あるいは誘惑で、あるいは義理ずくめで、競って有権者の心を動かそうとつとめてくるだろう。

 無邪気な有権者が、多数の候補者または運動員の間で板ばさみになり、いわゆる『あちらを立てればこちらが立たず』、その返事に困り、その選択に苦しむ状態が想像できる。

 そして往々として、その煩わしさに耐えられず、またはその苦痛に耐えられずに、選挙権というものは権利ではなく、むしろ一種の義務ではないのかと疑い、甘んじてこの権利を放り出したいと願ったり、またはさっさとこの義務から免れるために、ただその時の便利や都合に従って行動し、ちっともその結果どうなったかを反省しない者がいる。これは、一応はもっともなようにも思える。

 選挙は権利である。しかし一面においては確かに義務である。有権者がその代表者(議員)を通して政治に参加する点では権利といえるが、国家のために善良な議員を選び、その国家の進歩と発展に尽くす点では、明らかに重大な義務でなければいけない。

 だからベルギーではこれを権利としてよりもむしろ義務として、もし投票をしない者があれば、相当の罰金を支払わせるという法を設けている。その所有の権利を投げ棄てる愚は言うまでもなく、ただ自分からその愚に甘んじるとするなら非常に咎めるべきでもないが、これを義務の点からみれば、投票をしない事はその国民である義務を果たさないという罪で、もとより免れることはできない。

 また、上から言われて投票をしたとはいっても、善良でない候補者に投票するのは、ひとり彼ら自身の不利益であるばかりでなく、また実に間接的に国家に悪影響を与えること甚だしいものである。

 ゆえに、投票は棄権するべきものではないし、そして更には候補者の選択においても最も慎重でなければいけない。

 そう、日米同盟があることに狂喜し毎晩しこたま酒を飲むほどに国家を愛するという国民は、候補者の選択は最も慎重でなければいけないのだ。

 なぜならば今の国会の腐敗堕落は、わが国家にとってロシアと中国が接近するよりも恐れなければいけないからである。
 我が国会の改善は、我が国家にとっては竹島や尖閣諸島の帰属問題よりも急を要するからである。

 彼ら国家に忠実で『愛国心』のある、主に電脳空間で熱狂的な国民諸君は、果たしていかなる候補者を選ぼうとしているのかは知らないが。

 私が試しに有権者諸君のために、その候補者選択の基準を示させてもらおう。

 私は心から言いたい。

 その候補者が名家の出だからと選ばないで欲しい。
 その候補者が弁が立つからと選ばないで欲しい。
 その候補者が財産を持っているからと選ばないで欲しい。
 その候補者が年寄りだからと選ばないで欲しい。
 その候補者が格好良い、または美人だからと選ばないで欲しい。
 ただ諸君の財布を託して安心だと思う候補者に投票せよ。それはまた心から願うところでもある。

 代議士は実に諸君の財布を託する人物である。財布の出納を一任する人物である。いや、諸君の自由と安全と幸福とその生命すらも委ねる人物である。

 諸君の愛する国家の運命、日米同盟があることを狂喜するほどに愛する国家の運命を託する人物である。決して誠実な人物でない者であってはいけない。そう、誠実であらさねばいけないのだ。

 よって私は繰り返し言おう。

諸君の財布を託して安心であると思われる候補者を選べ!

と。






 以上、紅星の拙い訳文をお読み下さり、ありがとうございました。

 何せ、紅星は学生時代、国語の成績はまあまあだったのですが、漢文だけは成績悪かったので、正直出鱈目な訳をしているかも・・・『ここはこういう風に訳すのが正解』などのご意見いただければありがたいです。

 したっけ、今宵はこの辺で
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