終戦の日の『夕凪の街 桜の国』その1-永く後世にまで読み継いでもらいたい『漫画文学』-

 8月15日の『終戦記念日』、お盆休みの最終日くらいはどこか行きたいと、
映画『夕凪の街 桜の国』
を観に松山に出かけた。

 原作の漫画『夕凪の街 桜の国』こうの史代)を初めて知ったのは、2年前(被爆六十年)の『原水爆禁止世界大会 ナガサキ』の会場で、広島から来た高校生平和ゼミの生徒さんからもらったパンフを見てだった。

yuunagi_l.jpg


 パンフに紹介されている『夕凪の街―』の絵柄を見て、「あれ、どこかで見た事のある絵だなぁ。どこで見たっけ?」と思い、興味がわいた(のちに「こっこさん」の作者がこうのさんだった事が分かり納得。「まんがタイムジャンボ」連載時-この雑誌は今も毎月買って読んでいる。また連載してくれないものか-に愛読し、「ホンワカとした懐かしい絵を書く人だなぁ」と思いつつもなぜか作者名を忘れていたのだ)。

 長崎から戻ってすぐ市内中の名だたる本屋をまわって探したが、見つからない。仕方なく本屋に取り寄せをしてもらい(Amazonで買えばすぐ入手できるが、できるだけ地元の本屋を使いたいので)、待つ事2週間、ようやく手に入れる事ができ、その日に早速読んだ。

 この漫画は100P程度の薄い本なのだが、何度もページをめくり返し、涙でグシャグシャになりながら読んだ。

『夕凪の街』のヒロイン・平野皆実(みなみ)の、妹の翠(みどり)・姉の霞(かすみ)・父が原爆で死んだのに自分は生きている事への慙愧、それを乗り越え、打越と幸せな未来へ歩き出そうとした矢先の原爆症の発症。最期の刻の空白のコマと無念さ。

皆実の最期の台詞、
『・・・嬉しい?/
十年経ったけど 原爆を落とした人はわたしを見て 「やった!また一人殺せた」とちゃんと思うてくれとる?/
ひどいなぁ  てっきりわたしは 死なずにすんだ人かと思ったのに』


このシーンを見るたび、また、思い出すたびに、もう何度涙したことだろう。

原爆を扱った漫画としては、先日もフジテレビ系列でドラマ化された 『はだしのゲン』 があまりにも有名で、小さい頃紅星の家にも全巻そろっていたので何度も読み、その凄惨な描写に子ども心に恐怖した思い出がある。

それに対して『夕凪の街』ではそのような目を背けたくなる描写は出てこないのだが、西平和大橋のたもとで打越と皆実がキスをしようとする平和な光景から刹那、十年前の8月6日の同じ場所の光景がフラッシュバックするシーン(被爆した方が『新大橋』-西平和大橋の前に同じ場所に架かっていた橋-の投下直後の光景を描いた絵をモチーフにしている)や、河原のススキが地中から皆実に向かって伸びる手に変化するシーンなど、こうのさんの絵柄がかえって原爆の酷さ、不条理さを引き立てる効果を果たしている。

『桜の国』は現代を舞台にした、皆実の姪石川七波がヒロインの話で、父・の広島行を尾行するなかで伯母たちの存在を知り(旭や祖母のフジミは、皆実たちの話をそれまで七波にしてこなかったようだ)、原爆症で母親を亡くしたつらい過去から逃れるのをやめ、被爆二世としての自分を受けとめた上で前を向いて生きていこうとする話(と紅星は思っている)。

『夕凪の街』と一転し、全体的に明るいトーンで描かれ、他のこうの作品のようなコミカルなシーンも多くて思わず笑ってしまう事も度々だった。そのような中にも、七海の弟・凪生と七波の友人・東子との交際に今なお暗い影を落とす被爆者差別など、書くところはしっかりと書き込まれており、コミカルななかに人生ドラマをしっかりと描くこうのさんの作風はここでも健在。

そして最後に七波が、凪生が東子に書いた別れの手紙を破きながら、亡き母・京花に語りかけるシーン。
京花は「赤ちゃんの時にピカの毒にあたってしもうた」(京花の台詞から)被爆者で、旭の(そして皆実の)母・フジミが「うちはもう知った人が原爆で死ぬんは見とうないよ・・・」とその結婚に最初反対したように、いつ皆実のように原爆症を発症するかも知れない。そのような事も覚悟の上で、旭は京花に求婚し、ともに人生を歩む事を決意する。そのシーンに二人の娘・七波の台詞が重なる。

『母からいつか聞いたのかも知れない/
けれど こんな風景をわたしは知っていた/
生まれる前 そう あの時 わたしはふたりを見ていた』


そして満開の桜が舞い散るなか、旭と京花が笑いあう見開きのシーンに、

『そして確かに このふたりを選んで 生まれてこようと決めたのだ』

という七波の台詞が重なる、じつに美しい、感動的なシーン。

この作品を映画化した佐々部清監督は、インタビューに対し、「『夕凪の街』だけでも2時間近い悲劇になりますが、『桜の国』があるから、映画にしよう、と。現代から未来に向ける目線があるからです」と答えているが、恐らくこのシーンが無かったら、本作品の印象は全く違ったものになっただろう。

本作品は2004年10月に第一刷が発売されて以来、ある意味『地味な』作品であるにも関わらず、3年間で21刷、累計30万冊を売り上げ、アメリカ・フランス・イギリス・スイス・ルクセンブルク・オーストラリア・ニュージーランド・カナダ・韓国・台湾で翻訳本が発行されているロングセラーとなっている。

こうのさんはこの漫画の巻頭言に

『広島のある 日本のある この世界を愛するすべての人へ』

と寄せているが、まだ読んでいない人は是非とも読んでもらいたい、そして子や孫の世代までも末永く読み継いでもらいたい、そう願ってやまない。


以上、映画評を書くつもりで原作の漫画を紹介していたら、思いのほか長くなってしまった。ので、映画を観ての感想は『その②』へ書く事にしたい。


『夕凪の街 桜の国』レビュー(ネタバレ注意。本作品を読んでから、その素晴らしさを再確認するために見る事をお勧めします)

こうの史代「夕凪の街 桜の国」読書メモ

【Misc Review】こうの史代:夕凪の街 桜の国

【紙屋研究所】こうの史代『夕凪の街 桜の国』





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TBもしておきました。
http://junsky07.blog89.fc2.com/blog-entry-218.html

【2007/08/21 08:58】URL | JUNSKY #96q68/9Y[ 編集]

夕凪の街


 この漫画,知りませんでした.不勉強ですね.
 瀬戸内特有の長い凪.そよとも風が吹かない沈黙の時をタイトルに取り入れています.登場人物の名前が広島の町名.皆実町,旭町,霞町,etc.
 読んでみます.よい情報をいただきました.

【2008/09/26 09:45】URL | Ladybird #89BSpq7o[ 編集]

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