終戦の日の『夕凪の街 桜の国』その2 映画を観ての感想-『皆実』と『七波』をつなぐ『京花』-

『その1』では原作の漫画について書いたが、引き続き、
映画『夕凪の街 桜の国』
について書く。

本作品が映画化される事を知ったのは、昨年の夏、7月の事だった。

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『夕凪の街-』FANのブログを見て廻っていたら、「『夕凪の街 桜の国』8月に広島ロケ 07年夏公開へ」という記事が。

その記事によって、映画は実写で、監督が佐々部清さんだということも初めて知った。

佐々部監督が撮るのなら、たぶん良い仕上がりになるだろうと安心する反面、「原作のこうのさんの、あの絵柄がアニメで動いているのも見たかったなぁ・・・。佐々部さん、あのこうのさんの絵が醸し出している独特の雰囲気、うまく映像化してくれるんだろうか?」と、正直いくばくかの心配も胸をよぎった事だった。

そしていよいよ今年7月28日『夕凪の街-』全国ロードショー!という事で、「よしっ、8月5日・広島原爆忌前日に高知に見に行くぞっ!!」と『夕凪の街-』公式サイトを調べて見ると・・・

『何じゃあ、こりゃあ!?』

何と高知の映画館では上映予定なし!?いや、四国でも松山の『シネマルナティック湊川』と今治の『アイシネマ今治』の2か所だけぇ!?

佐々部監督がこの映画を大手映画会社に持ちかけたところ「地味で売りにくい」と断られたそうだが、まさか上映までこんなひどい扱いをされているとは思わなかった。

おりしも、久間防衛相が「広島・長崎への原爆投下はしょうがなかった」と発言し辞任に追い込まれるという出来事があり、中川昭一・小池百合子らによる「核武装」発言が物議を醸し出した、被爆62年のこの夏である。

「まさか、何か政治的な圧力でもかかったのでは!?」と勘ぐりたくもなるし、怒りさえ覚える。

紅星の住む四万十市から高知市ならば、片道2時間半で済む(それでも最近はさすがにしんどくなってきている)が、松山までとなると高速を使わなかったら
片道4時間、往復で8時間
は見ておかねばならない。

「1日の3分の1を移動時間にかけてでも観に行くか・・・!?」と多少悩んだが、「今見なかったら、もうスクリーンで観る機会はないかも知れん」と思い、8月15日の『終戦の日』を選んで松山に観に行く事にしたのだった。

さて、そんなこんなもありながら『夕凪の街-』を観たのだが・・・
先に書いた『心配』も見事に吹き飛ばす、
素晴らしい、実に素晴らしい
出来栄えであった。

正直、原作と映画版では幾つかの根本的な設定の変更があり、特に、

○皆実の姉・霞が映画版では存在せず、原作では原爆投下後行方不明になった妹・翠が霞の役回りを演じている。

○原作では『夕凪の街』が昭和30年(被爆10年後)を舞台としていたのが、映画版では昭和33年の出来事に変更され、その事で『太田京花』の年齢設定に『???』が出来てしまった事。

の2点で『変更しない方が良かったんじゃないかなぁ・・・』と思ってしまったが、それを差し引いてもなお、原作同様
『珠玉の名作』
と呼ぶべき作品であると、声を大にして言いたい。

広島市の原爆スラム跡地の「基町ポップラ通り」に実在するアカシアや、『おこり地蔵』(実在し、今は松山市の『龍仙院』に祭られているそうだ)を連想させる、顔の片面が原爆で削げた地蔵など、細かいところの描写にも『おおっ!!』と思わせるものがあった。

キャストについても、七波の友人・利根東子役の中越典子が「ちょっとイメージと違うなぁ・・・」と思ったのと、原作では皆実の弟・が眼鏡をかけたヒョロっとした青年に描かれているのに対して、映画の旭役の伊崎充則がガッシリした体型だったのに軽い戸惑いを覚えたくらいのもの。

『夕凪の街』のヒロイン
 『平野皆実』
役の麻生久美子は、まさに『皆実』そのもので、明るく振舞うなかに潜む「私は、生きていてもいい人間なのだろうか?」という翳りを見事に演じてくれた。

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最期のあの、空白のコマのシーンも、原作とは違う作りではあったが、愛する打越と旭が水切りに興じるのを幸せそうに眺め、消え入るように逝った場面で、原作の皆実の最期を見た時のように、やはり辺りを憚らず号泣してしまった事だった。

実は麻生久美子の事はこれまで全く知らなかったのだが、彼女の演技なくしては、恐らくこの作品はここまでの出来にはならなかったであろう。

『桜の国』のヒロイン
『石川七波』
役の田中麗奈も素晴らしかった。彼女の事も、実はCMの『なっちゃん』以外印象になく(紅星は相当な芸能界オンチなのだ)、観る前は「彼女で大丈夫なんか!?」とも思ったものだが、最後の方の桜のシーンで、「まさかこんな演技ができるとは・・・」と、彼女の演技力を軽く見ていた事を詫びたくなった。やはり、彼女の『石川七波』も本作品には不可欠の存在だった。

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脇をかためた、皆実の母・フジミ役の藤村志保打越役の吉沢悠、そして最初の方で「戸惑いを覚えた」と書いてしまったが、旭役の田崎充則・堺正章も期待を裏切らない熱演を見せてくれた。

しかし、この映画版『夕凪の街 桜の国』は、

『太田(石川)京花』

という、「第3のヒロイン」がいたからこそ、このような素晴らしい作品になったのだ、と強く思うのである。

実のところ、原作単行本での京花の出ているシーンは、わずか13Pちょいである。にもかかわらず、紅星にはこの京花が何故か「とても気になるキャラ」だった。下手をすると七波以上に。

ひょっとすると、「ちいととろい子」(フジミの京花評)だが、両親を(恐らく原爆で)亡くしながらも、明るく心優しい京花に『萌え』を感じていたのかも・・・^^;

そんなこともあり、映画では京花がどのように描かれているのか非常に気になったのだが、映画を観た人の感想でも、皆実や七波について描いている人は当然多いのだが、京花について書いている人はあまり見かけなかった。

オフィシャルHPでも扱いが小さかったような感じがしたので、「佐々部監督はちゃんと京花にもスポットを当ててくれているだろうか?」とまたまた『心配』になったものである。

しかし、映画を実際に観たら、それは全くの杞憂であった。

原作では『桜の国(二)』の、旭の回想シーンからの登場だったが、映画では『夕凪の街』の原爆スラムのご近所さんとして早くから登場し、京花FANの紅星としては嬉しい限りであった。

もっとも、原作漫画の世界でも表に描かれなかっただけで、皆実やフジミとは常日頃から親しい間柄だったのだろう。原作単行本の挿絵には、皆実に髪を結ってもらう浴衣姿の「少女」が描かれていたが、やはり「少女」は京花で、皆実が亡くなる直前の7、8月の、縁日の一コマだったと考えられる。単行本を読み返して今さらながら気づいたのだが、翠は12歳で亡くなっており(P66)、昭和30年当時の京花は11歳だった(もう一つ、『桜の国(一)』の時の七波も小学5年生だった)。皆実は京花に、亡き妹を重ね合わせて見ていたのかも知れない。また、京花も皆実を、じつの「お姉ちゃん」のように慕っていた事が、映画版での描写から痛いほど感じ取れた。

皆実が原爆症で亡くなった事で、旭は広島の大学に進学する事を決意し、翌年春、広島に戻ってきて京花に出会う。

ここからは原作も映画版もほぼ同じ展開である。しかし分かってはいても、京花が旭に勉強を教わるシーンはやはり見ていて微笑ましかった(その後、彼女を襲う過酷な運命を知っているだけに尚更)。

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いや、原作よりも、映画版のほうがより強い存在感を感じたといっても過言ではない。

原作以上に京花に存在感を感じたのは、京花の少女時代を演じた
小池里奈
の演技力が素晴らしかったためだろう。それこそ彼女の名はこの映画で初めて知ったのだが、
「こんな演技のできる子役がいたのか!」
と、ある意味軽い衝撃を受けた。『漫画アクション』8月7日号の付録DVDによると、彼女は将来演劇の勉強をしたいとの事だったが、ぜひともこのまま伸びて素晴らしい役者になってもらいたいし、これからの彼女の活躍が楽しみである。

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さらに、成長した京花を演じた
粟田麗(あわた・うらら)
の演技力にも瞠目させられた。

彼女が初めて登場するのは原作の80P、東子を介抱するためラブホテルの部屋の鍵を開けたとき、七波の脳裏に京花が黒い血を吐いて床に倒れていた忌まわしい思い出がフラッシュバックするシーンである。とても難しい演技が求められるこのシーンを、彼女は見事に演じて見せた。

その後の、兄・元春の結婚を機に独立しようと考える京花に旭が「母さんも助かるし、うちに来ないか」と誘われるも、フジミに遠まわしに拒否(仲が悪いのではなく、むしろ近しい存在ゆえに、皆実のように原爆症で死ぬのを見たくないという想いから)され、戸惑いながら外に出て行くシーンも良かった。

しかし、やはり何と言っても、旭が京花に求婚するシーンが圧巻だった。

原作では西平和大橋で求婚するが、映画版では、夕凪刻、原爆スラムの空き地、あのアカシアの近くで求婚する。

途中までは、場所は違えど台詞回しはほぼ原作どおりで、そのまま次のシーンに行くものと思った。

しかし、違った。

おもむろに旭はポケットから何かを取り出し、京花に渡す。最初「あれ?結婚指輪でも渡すのかな」と思ったのだが、それは乳白色の地に桜が散りばめられた髪留め。その髪留めを受け取り、京花は声を押し殺して泣く。

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このシーンは原作になかったため全くの予想外で、場面の描写、伊崎と粟田の熱演、そしてこれでもかとばかりの絶妙なBGMが、それまでの映画のシーンを紅星の脳裏にリフレインさせ、滂沱の涙と鼻水が溢れてどうにも止まらなくなってしまった(汗拭き用のタオルがこれほどありがたい事はなかったなぁ)。

正直、この文章を打っている今も、目頭が熱くなってくる。

まさに『夕凪の街-』の登場人物の想いがこの1シーンにギュッと集約した感があった。

(佐々部監督が一番撮りたかったシーンは、実はこれだったのでは・・・。)

映画版では、原作とは異なり、旭と京花の出会いから求婚、東京での生活シーンを、二人の娘である七波が幻視する形に描かれている。

そして原作と同じく、満開の桜並木のなか、母の、祖母の、そして伯母の形見である、三人の想いがつまった髪留めを手にしながら、七波が亡き母に話しかける感動のシーンに繋がっていくのである。

やはりこの『夕凪の街 桜の国』、往復8時間の移動時間とガソリン代4千円をかけても惜しくないどころか、余りある感動と、「こんな悲劇を二度と繰り返させてはならない」と、ますます困難さが増して挫けそうにもなりがちな核廃絶の取り組みへのパワーを分けてもらって、こちらがお礼を言いたいくらいだった。

この映画が四国で上映されるのは8月末までのようだが、何とか金と時間の都合をつけ、もう一度見に行きたいなと思っている。そして上映が終わってしまっても、DVDを手に入れるなり、自主上映会を企画するなりして、一人でも多くの人に原作単行本と映画『夕凪の街-』を見てもらえるような活動を続けていこう、などと意を強くしているところである。


追記:似たような考えをお持ちの方で、実際に自主上映会を企画している方がいましたら、ぜひお知らせ下さい(こういう企画、今まで取り組んだ事ないもので・・・^^; 色々教えて頂ければ有り難いです)。



『夕凪の街 桜の国』FANの方々のブログ記事紹介☆


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*夕凪の街 桜の国*【『Cartouche』さん】

『夕凪の街 桜の国』【『おじさんの依存症日記』さん】

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夕凪の街 桜の国 を観に行きました【『お玉おばさんでもわかる政治のお話』さん】

「夕凪の街 桜の国」を広島で観る【『再出発日記』さん】














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この記事に対するコメント

紹介&トラックバックありがとうございます


コメント遅れてすみません。
ご紹介とトラックバックありがとうございました。

私のはつたないブログですが、お役に立てたようで本当にうれしいです。

それにしても詳細な分析・解説、圧巻です。

これからもときどきのぞかせてもらうと思います。

ありがとうございました。

【2007/09/04 21:23】URL | tamy #pj1DWDpE[ 編集]


私は10年間、関西に住んでいて3月に広島に戻って来ました。おじを原爆で亡くし母親も赤ん坊の時ながら被爆者で私も一応は被爆2世です。小さい時は原爆の日が嫌で嫌で(平和学習などで原爆の悲惨さをこれでもかとたたきこまれたんで…)
この度、広島に帰り何気無く「夕凪の街 桜の国」をTSUTAYAで借りてみました。今、私はちょうど映画の舞台となった土手を自転車で通勤しています。借りて見た時は季節柄、桜も咲いていました。次の日の朝、血を吐いて倒れていた高層アパートも皆実が亡くなった川土手もリアルに自転車で通勤しました。普段はそのまま走ってしまうのに、思い出して涙が止まりませんでした。いまだに映画の余韻が残っています。物語の舞台が映画と現実ではっきりとしてピンときやすいから思いだし泣きが止まりません

【2010/04/23 23:30】URL | #-[ 編集]

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*夕凪の街 桜の国*

{{{   ***STORY***                2007年  日本原爆投下から13年後の広島。そこに暮らす平野皆実は、打越に愛を告白される。だが彼女は、原爆で父と妹を失い、自分が生き残っているという事が深い心の傷になっていた。そんな彼女の想いを Cartouche【2007/08/21 10:42】

夕凪の街 桜の国

希望は咲き誇る。 Akira's VOICE【2007/08/22 10:24】